ここ最近、各留学エージェントや各国語学学校等でお問い合わせが増えている「親子留学」。今回は、日本認定留学カウンセラー協会代表幹事であり、国際教育事業コンサルタントライジング・スター代表の星野達彦さんに、幼少期からの異文化体験や、今「親子留学」が注目されている理由、親子留学を経験したママにピッタリの新しいキャリア…などについてお話をお伺いました。
幼少期の異文化体験はグローバル化した社会への苦手意識や過剰な拒否反応とは、無縁にするチカラがある – 星野 達彦
−−今、幼少期からの異文化体験として短期間からの「親子留学」にトライする方が増えていますが、プロの視点から親子留学のメリットは何だと思いますか?
星野 達彦 さん(以下敬称略):まず、子どもには垣根がありませんよね。肌の色や言語が違っても、同じ人間で友だちになれるということを潜在的に知っている。この時期の異文化体験は、その子にじわっと染み込んで、グローバル化した社会への苦手意識や過剰な拒否反応とは、無縁にさせます。
実は、私自身がそうなんですよ。
5歳から東京都・福生市で横田基地の米軍ハウスに住んでいました。父がアメリカ大使館の通訳をやっていたこともあり、英語が話せたのでアメリカ人とビジネスをしていました。隣近所は全員アメリカ人。言葉は交わせないけど、いつも一緒に遊んでいた記憶があります。
私が初めて留学したのは大学を卒業後、1年間社会人をやってお金をためてからです。その当時は留学自体が珍しく親子留学はできなかったのですが、幼少期の異文化体験がなければ、留学という考えに至らなかったと思います。もちろん行き先はアメリカです。アメリカ以外考えなかったのは、子どもの頃の楽しい思い出や憧れがあったからなんです。
「親子留学」では海外旅行では見えてこないこと、味わえないことが体験できる
−−今、1週間からのプチ親子留学をはじめ、長期で数年の親子留学をされる方が増えている要因はどこにあるのでしょうか
星野:小さなお子さんを持つ親御さん世代は、ご自身に留学経験があったり、身近に留学した方がいたりして、留学に対するハードルが低いのではないでしょうか。
それが短期・中期・長期の「親子留学」が増えている要因だと思います。
ママが留学先で学校に行くパターンと、行かないパターンがあると思いますが、いずれにせよ、短期間でも一定期間を海外で暮らすことは、親子ともに非常に意義のあることだと思います。海外旅行では見えてこないこと、味わえないことが、暮らすことで体験できますから。
今、注目されているキーワードは「トランスナショナル・エデュケーション」
−−今、注目の親子留学先はありますか?
星野:
マレーシアやシンガポール、ベトナムなどアジア新興国に設立されたインターナショナルスクールへの留学が流行っており、長期の親子留学や教育移住でも注目が集まっているのでご存じの方も多いのではないでしょうか。
近年の留学のトレンドとして “トランスナショナル・エデュケーション”というキーワードが盛り上がっていて、例えばマレーシアに設立されたイギリスの名門校の分校で学ぶことができるということで、様々な年代の留学生が集まってきています。留学先はマレーシアだけれど、カリキュラムや施設はもちろん、先生もイギリスから招致されるという形です。
トランスナショナル・エデュケーションを実施しているアジアで学ぶメリットは、何と言っても滞在費が安い点です。
日本からの留学生は旅費も抑えられます。また、授業は欧米から招致されたネイティブの先生が行いますが、生徒のほとんどが「留学生=ノンネイティブ」。初めての留学でいきなり欧米に行くよりも、ソフトランディングができるという点もメリットではないでしょうか。
グローバル教育のはじめの一歩は「アウトオブボックス」にあり
−−アジア親子留学の醍醐味は?
星野:
アジアの新興国を訪れると、急スピードで経済成長している国のエネルギーみたいなものが感じられます。日本にいたら味わえない活力に満ちている。反面、大きな矛盾も目の当たりにします。所得格差が激しく、超高層ビルが建ち並ぶ少し奥へ進むと、低所得者層の住居が立ち並んでいることを目の当たりにすることも。
こういった世界の現状に身を置き、身をもって知ることができるのが留学です。グローバル教育というのは、異文化を体感し、多文化の中で共存・共栄をしていく知恵を養うことを指していると私は思います。知識ではなく知恵なんです。知恵は座学では決して身につきません。
だからこそ、グローバル教育のはじめの一歩は“アウトオブボックス(Out of the box)”。
まず世界に出ることです。
グローバル人材しか生き残れない時代はもうすぐそこまで来ている
多民族・多文化が当たり前の国と違い、日本はモノカルチャー(単一文化・単一経済)でやってきました。でも今もうすでに、その当たり前が変化しています。不況が続き、少子化が進んで、今まで国内で完結していたことが、まかり通らなくなっている。変わろうという意欲よりも先に、変わらざるを得ない状況なんです。グローバル人材しか生き残れない時代は、もうすぐそこまで来ています。
ちなみに、現在、私達の住む日本では、国策としてグローバル人材の育成に取り組んでいることもあり、日本国内の留学市場は成長傾向にあります。国内から海外への留学生が増えているだけでなく、海外からの留学生を受け入れる動きも盛んです。
教育もグローバル化が始まっている学業のボーダレス化
「インターナショナル・スチューデントモビリティ」とは?
2008年に政府が発表した「留学生30万人計画」は、2020年までに、外国人留学生を30万人招致する計画。現在は約18万人程度なので、あと5年でほぼ倍近くを目指しています。
国内はもとより世界的にも留学生の数は加速度的に増えています。学業がボーダレス化・フラット化している証拠ともいえるでしょう。例えば“インターナショナル・スチューデントモビリティ”といって、イタリアとフランスの大学、どちらで学んでも卒業できるよう単位の互換性を持たせるといった動きが、EU、ASEANをはじめ日本と中国と韓国の間でも進められています。
実際、文部科学省は国際的な視野を持った人材を育成する国際バカロレア(IB)認定校やそれに準じた教育を行う高校を5年以内に200校に増やそうとしています。現在、急速にグローバル化を遂げているのは、主に高等教育ですが、小学校での「外国語活動」の必修化等、その影響は間違いなく中等教育や初等教育にも降りてきています。
親子留学がキャリアになる!?
親子留学に強いママ留学カウンセラーの需要は高まる可能性も−−
−−ちなみに、親子留学に特化した留学カウンセラーはいるのですか?
星野:
現在、ジュニア留学に強い留学カウンセラーはいますが、親子留学に強い留学カウンセラーはあまり多くないですね。留学カウンセラーは、自らの留学体験を語りつつ、クライアントの留学への不安を解消し支えて感謝される、とてもやりがいのある仕事です。
現在、一般社団法人JAOS海外留学協議会認定の留学カウンセラーは約350人。急速なグローバル化にともなって、人材のニーズは増すばかりです。特に女性に人気のある仕事なんですよ。親の目線で体験し気づいたことを語れる、親子留学に強い留学カウンセラーも、今後必要になってくるでしょう。親子留学を体験したママが、留学カウンセラーとして即戦力になる可能性は、十分にあると思います。
−−留学カウンセラーにはどうやったらなれるのですか?
星野:
「JAOS 留学カウンセラー」とパソコンで検索してみてください。
私も教材を作ったり試験官をやったりしています。
資格を持っていないと留学カウンセラーになれないわけではありません。ただ、ここで取得した資格は、就職時に知識の証明になります。「親子留学」でお子さんと一緒に体験したことは、お子さんの将来ばかりではなく、ママの将来も変えるかもしれない。まずはアウトオブボックス。世界へ飛び出しましょう!
文/宇佐見明日香 撮影・編集/内海裕子
【関連インタビュー】
- 井川好ニ氏(Koji Igawa)教育学博士
幼少期に海外経験をする良さは、「世界にはいろいろな人達がいて当たり前」と感じられること - 井川好ニ氏(Koji Igawa)教育学博士
世界のインフラ「リンガフランカ」として英語を学ぼう! - 今泉沙織さん(Saori Imaizumi)世界銀行 ICT&教育コンサルタント
幼少期に両親が与えてくれた「世界」との出会いから学んだこと…そして今 - 今泉沙織さん(Saori Imaizumi)世界銀行 ICT&教育コンサルタント
幼少期から、国籍を超えてオープンなマインドで仲間を作っていく経験を大切に - 辰野まどかさん(Madoka Tatsuno)GiFT専務理事・事務局長
幼少期から身近にあった世界…そして、世界平和実現のために「グローバル教育」を決意するまで - 塩飽隆子さん(Atsuko Shiwaku)ジャパン・アートマイル 代表
何のために英語を勉強しているの? グローバル社会を生きる子どもの教育に必要な本当のこと