いじめ問題を乗り越えて…多様性を受け入れる教育と子育て
- 春名聡子(Akiko Haruna)
- Glolea! 国境を越えたホリスティックな学びのアンバサダー
目次
日本だけではない
アメリカ各地に蔓延するいじめ問題を考える…子ども達を健全に育てるには?
こんにちは! Glolea! 国境を越えたホリスティックな学びのアンバサダー春名聡子です。
寒い中、いかがお過ごしでしょうか?
日本だけでなく、アメリカ各地の学校にも蔓延する「いじめ(bully)」問題。その現実の中で、子ども達を健全に育てるには…という課題について掘り下げて語りあう参加型サロンに参加してきました。
少女期に“帰国子女いじめ”を経験した
ミスコンテスト優勝者Terriさんを迎え
いじめについてディスカッション
粉雪がぱらつく冬の夜でしたが、子ども連れの親御様、教育関係者、そして少女期に“帰国子女いじめ”を経験したミスコンテスト優勝者である、Terri Wareさんもゲスト参加。
グローバル志向なGlolea![グローリア]読者である親御様にとっても「多様性を排除しない学校環境を作って行く事」は、とても関連性の高いテーマだと思います。
今回の記事では、社会が抱える傷など・・・奥深い話題まで掘り下げたディスカッションの様子を、ぎゅっと手短にお伝えします。
帰国子女いじめと、違いを受け入れない文化…
サロンではまず、2011年に公開されたアメリカのドキュメンタリー映画「THE BULLY PROJECT/邦題:追いつめられて ~アメリカ いじめの実態~」を上映。
カメラは、身体的特徴、 個性、ゲイ・レズビアンなど、「普通と違う」事でいじめに遭い、自殺に追いやられた子どもの親達のその後、残酷な言葉のナイフにさらされ暴力に遭う中で、学校で行き場をなくした子どもの日常といじめ現場、大人側の事実回避といった、隠された過酷な現実に光を当てながら、解決策を探って行きます。
映画「THE BULLY PROJECT」から学ぶ
いじめに遭う子ども達の過酷な現実と傷の深さ
映画「THE BULLY PROJECT」予告編:一部、衝撃的な場面も含まれます
映画を見た参加者一同、いじめに遭う子どもの過酷な現実と傷の深さに大きなショックを受けつつ、会話が始まりました。
今回、特別参加した、Miss BOWIE(DC近郊の都市/Miss Bowie Plus America 2015 )のTerri Wareさんは、ミスである立場を活用し、 いじめ防止キャンペーンの活動を展開中です。
Terri Wareさんが活動をはじめたきっかけは、自身が帰国子女である事で、少女期に学校で長期にわたるいじめを受けた事からでした。
父親が米軍人で世界各地の基地に勤務したため、幼い頃からドイツ・イギリス・その他世界各地の街を数年おきに引っ越しながら育つという幼少期を送ったTerriさん。
各国の学校に馴染んで楽しく暮らした後に帰って来たアメリカの中学校で、帰国子女のTerriさんは大きな心の傷を抱える事になります。
ブラックアメリカンなのにクイーンイングリッシュ訛りがおかしい…といった、人種差別と違いへの非寛容が混ざった理由で、何年にも渡りクラスメートから言葉の暴力によるいじめに遭い続ける事に。誰にも現実を打ち明けられず、バスルームで睡眠薬の瓶を抱えて立ち尽くした事もあったTerriさん。
成長して行く中で過去の傷を乗り越えました。(ミス アメリカのコンテストでは 語学力・知性・人間性といった内面が審査の重要ポイント。優勝者は社会貢献活動が義務です)
涙を浮かべながら胸の内を語り、子ども達が自分と同じ傷を追う事のないようにと活動をしている彼女の想いに、一同、胸を打たれました。
個人的には、大学時代に帰国子女の日本人学生達が「ファッションや振る舞いが自分たちと違う」という事だけで、大学生というオトナ年齢にも関わらず、海外経験のない一部の学生達から排除的な扱いを受けていた事を、思い出しました。
いじめの根本にある、大人社会の力の構造−−
日本でも根強い、学校でのいじめ。
子どもは果たして「生来の残虐性を秘めた」生き物なのでしょうか?
ディスカッションでは、「大人社会がいじめを作り出している」という声を多数耳にしました。自由の国アメリカ、のイメージからして意外に思われるかもしれませんが、アメリカの多くの学校である公立学校はピラミッド社会。
先生自身が硬直的な教育システムの中で抑圧を受ける事が多く、抑圧された先生は子どもを上から一方通行管理するという力関係。押え付けられた子どもにとってのはけ口がいじめになる、という事です。
暴力の連鎖は、いじめ被害者の自傷行為につながるか、翻っていじめっ子への転身や復讐を引き起こしかねます。
力による管理の社会ではなく、
当事者に耳を傾ける共感性の高い社会を作って行くには−−
ディスカッションは次に、学校内で大人に都合のよい偽善と一方的な懲罰がまかり通っている事と、それが子どものいじめ構造にそのまま反映されているという点に移りました。
映画の中では、大人の関係者が、いじめっ子に理由を説明せず処罰したり、「握手」して和解させるなどの表面的な謝罪で済ませたり、いじめられた結果恐怖に駆られてスクールバスに拳銃を持ち込んでしまった子に終身懲役といった厳罰を科そうとしたり、いじめ被害者の親を口でうまく丸め込むといった、根本的解決につながらない大人の「体裁を整える」対応が多く見られました。
学校の外の社会でも、力関係・力による支配と、鬱屈した暴力の発生は、至る所で見られます 。
ディスカッションは、司法・警察・政治といったアメリカ民主主義システムの根本にも及びました。
ワシントンDCの都市再生NGO代表である参加者のAさんは、
大人同士が力による支配を正当化して、社会全体が暴力というトラウマを抱えている中、いじめが学校で起こるのも当然
といいます。Aさんは、拳銃という「力」で治安を維持しようとする警官の傍ら、治安の悪い地域の 市民の見回りを実施している例を挙げました。
公園やストリートにいるホームレスや若者にhelloと声を掛け、話に耳を傾けていく方が、権力で管理するよりもよほど治安がよくなるのに
と学校関係者のいじめへの対応と対比させてコメント。(なおアメリカでは警官による市民、ことブラックアメリカンの非道理な射殺などの暴力が根強い問題です)
まずは、私達の社会に暴力が蔓延しているという事実を痛みを持って受け止め、悼む所から始めるべきでは、という声も上がりました。
力による管理の社会ではなく、 当事者に耳を傾ける共感性の高い社会を作って行くには、そして大人達は子ども達に何ができるのか、に話は移行しました。
多様性を受け入れる子どもの価値観と
コミュニケーション力を育てる取り組み
- 子ども達が本質的に持つ「力」を押さえつけず伸び伸びと発揮させる取り組み−−
例えば、子ども達自身にクラスで守るルールを作ってもらい、文化を自分たちの手で意識的に維持させる事。 - 子ども参加型のいじめ防止キャンペーン−−
いじめ現場に遭遇したら、自分がいじめに遭ったらどうするか、という双方型の対話を、早い時期から子どもと親が持って行く事。 - クラスメートの一人一人が「違っている」事が本来は素晴らしい財産であるという意識を子ども達の中に育んで行くようなセッションを、学校内に作っていく事。
- 怒りやイライラといった感情を認識し、暴力ではない形で表現できるようなコミュニケーション力(共感のコミュニケーション)を学校で教える事。
このような取り組みは、先進的な学校から始まり、公立の学校にも徐々に取り入れられつつあります。違いを問わず、全ての子どもが居場所を持てる学びの場作りに向けて。アメリカでは一歩一歩、今日も取り組みが進んでいます。
関連リンク
記事をお読み頂きありがとうございました!
みんなの評価: (件)
この記事を執筆したGlolea!アンバサダー
- 春名聡子(Akiko Haruna)
- Glolea! 国境を越えたホリスティックな学びのアンバサダー
- ワシントンDC
2008−16年まで北米在住。2015−16年北米ワシントンDCで夏のホリスティックな親子留学プログラム「グローバルコンシャス」を主宰。北米・中米・アフリカなど各地の自然に足を運んだ経験を活かし、現在、人と自然をつなげるジャーニー・ワークショップのプログラムForest Beats -森の鼓動-を運営。