インターナショナル・サマースクールの魅力とは? ー パンゲア ファシリテーターリーダー 石松昌展さんインタビュー
- 枝廣綾子(Ayako Edahiro)
- Glolea! 世界と出会い、伝えあい、つながる遊び場アンバサダー
皆様こんにちは! 認定NPO法人パンゲア理事/Glolea!世界と出会い、伝えあい、つながる遊び場アンバサダー枝廣綾子です。世界の子ども達が言葉、距離、文化の違いの壁を乗り越えて、個人的なつながりを感じることの出来る遊び場「ユニバーサル・プレイグラウンド」を構築しているパンゲアの活動。連載12回目の今回は、学生時代からボランティアでパンゲアのファシリテーターをして下さっている石松昌展さんのインタビューです。
目次
言葉の違う子どもたちと一緒に遊んでいるときの子どもたちのキラキラした目は、見ていてとてもうれしくなります−−石松昌展
プロフィール
石松昌展/パンゲアファシリテーターリーダー
NTTコミュニケーションズ勤務。京都大学・大学院在学中、研究分野である異文化コラボレーションのためのサービス「言語グリッド」を利用したツールのインストラクターとしてパンゲアに関わって以来、ファシリテーターとしてボランティア活動を続ける。学生時代は京都大学でのアクティビティに携わり、就職して関東に移ってからは東京、柏の葉の活動に参加。特に柏の葉は立ち上げ当初からファシリテーターリーダーとして参加している。KISSYへの参加は2014年に引き続き2回目。2015年度NPOパンゲアのボランティアオブザイヤーを受賞。
7月31日(金)~8月7日(金)の日程にて、5カ国28人の子ども達が参加し、京都大学にて実施された認定NPO法人パンゲア主催のサマースクールKISSY(KyotoInternational Summer School for Youth)。今回は、サマースクール中のファシリテーションをしてくださった石松昌展さんに、インターナショナル・サマースクールの魅力や、インターナショナルサマースクール中の子ども達の活動、パンゲアのサマースクールのファシリテーションを通じて感じたこと…などをお聞きしました。
−−パンゲアのボランティアを始めたきっかけを教えてください。
石松昌展さん(以下、敬称略):
大学生の時、所属していた石田・松原研究室で研究していた翻訳ツールを、パンゲアが使っており、ツールの使用方法をサポートするために来てくれないかと言われたのが最初です。
もう8年も前のことなんですね。その日は京大で行われているウェブカムアクティビティで韓国の子どもたちと遊んだのですが、技術サポートのはずが、いつのまにか、ファシリテーターを務める事になりました。もともと地元にいるときに子どもと遊ぶ活動をしていた経験があったり、絵を描いたり作ったりする事が好きだったりするおかげで、それはそれはとても楽しい体験になり、そのときからこれまでどっぷりはまっています。遠隔地の言葉の違う子どもたちと一緒に遊んでいるときの子どもたちのキラキラした目は、見ていてとてもうれしくなります。
言語コミュニケーションと、
その向こうにある文化の壁を乗り越えていく経験を積んでいる子ども達の姿
−−石松さんから見たパンゲアの魅力とは?
石松:パンゲアの遊びの面白さや、裏で動いているシステムの面白さはもちろんあるのですが、僕はそれよりもパンゲアのルールが魅力的だと思います。
人の嫌がることをしない
これがたった一つのパンゲアのルールです。単純なようでこれが難しい。
相手のことをよくよく考えないと、相手の嫌がることはわかりません。僕がこのルールが好きなのは、相手のことを考えて行動するという点ではなく、どんなに考えても間違える時があるという事実を学ぶことができる点です。
パンゲアは、多言語のコミュニケーションを行います。機械翻訳を通じて、いろんな国の子どもたちとやり取りをします。言葉の壁は機械翻訳がサポートしてくれますが、その壁の向こうには文化の壁があります。
国が違わない、同じ文化の拠点の子どもたち同士でも考え方は違います。それが異文化間のコミュニケーションになると、それぞれの正義や当たり前が相手と同じことの方が珍しいのではないかとさえ思います。自分の正義が相手の正義とは限らない。自分の正義を主張しても、その通りに行動していたとしても、相手がそれをいやだと思うのならば、パンゲアの中ではそれはやってはいけないことになります。
毎回の活動で、このような壁はそこかしこに現れます。
自分と相手が違うという事実と、違っていても仲良く遊べる、思いやれるという体験を子どもたちがしていることが、僕にとってのパンゲアの魅力です。僕自身も活動を通じてそういう経験をたくさんしています。
石松:例えば去年のKISSYでのことです。カンボジアの子どもと一緒のチームになり、僕はチームリーダーを務めていました。サマーキャンプの最後のイベントとして、みんなで大阪万博公園にある民族博物館を見て回っている際に、その子が一人で行動していることに気づきました。
ほかの国の子どもとも仲良くなったと思っていたのですが、結局一緒に見て回ることはできませんでした。チームリーダーとして、もっとどうにかできたのではないかと後悔しました。そのとき、カンボジアのファシリテーターにこんなことを言われました。
カンボジアの人には、一人になりたい時がある。別にその集団が嫌いとか、いやなことがあったとかそういうことは関係なく、無性に一人で行動したくなる。私だってそうなるし、そんな時は無理して一緒に行動するほうがつらくなるんだ
と。僕の中のあたりまえは、「仲が良い=一緒にいる」でした。
逆に一緒にいないということは何か問題があると思っていました。でも、そうでない人もいる。現にその子は、その後何事もなかったかのようにみんなで楽しく鬼ごっこしていました。
パンゲアではいろんな子どもがいる、いろんな考え方があるという事が、当たり前のことです。その中で
人の嫌がることをしない
というルールをみんなが自分なりに一生懸命守ろうとしながら一緒に遊んでいる。この素敵な環境が僕にとってのパンゲアの魅力です。
言語の違う子ども達同士が意思疎通を図りチームになっていくプロセス
−−今回のサマースクールで担当されたグループはどんなメンバー構成でしたか?
石松:今回は3か国7人の子どもたちから構成されるグループでした。ケニアの男の子一人、韓国の男の子一人、韓国の女の子二人、日本の男の子一人、日本の女の子二人の7人です。
−−お互い言語も通じない子どもたちが、どのようにチームとしてのコミュニケーションをとっていたのでしょうか?
石松:KISSYの前半は、皆で一つの作品を作りました。その時は子ども一人ずつにパソコンが配られ、「ゲンゴロウ」という機械翻訳が裏で動く多言語チャットを使ってコミュニケーションをとりました。
子どもたちが自分の母国語で発言したい事をパソコンで入力すると、ほかの子どもたちの画面にはそれぞれの言語に翻訳された文章が即座に反映されます。実は去年のKISSYでも同様のシステムを使いました。ですが、去年はタイピングのうまい子の発言のみでスレッドが次々と更新され、不得意な子の発言がなかなか拾えないという反省点がありました。
今年は技術チームがその点を改善してくれ、子どもごとに発言できる吹き出しのようなウィンドウが設けられたことで、皆の発言を追うことができました。これは非常に助かりました。また、子どもたちも、焦ることなく自分の意見をしっかりと出してくれました。
個人的には、学生時代に僕は同じ「ゲンゴロウ」(正式には言語グリッド)を使った研究をしていたので、実際に機械翻訳を使い、言語の違う子ども達同士が意思疎通を図れていることがとても嬉しかったです。
ただし、ゲンゴロウは機械翻訳です。誤翻訳もあります。
子どもの率直な発言というのはタイプミスがあったり、「てにをは」が抜けていたり、主語がなかったりする(これは日本語に特に顕著ですが)ため、機械翻訳はよく間違えます。そんな時は、直接言葉で会話をします。片言の英語同士でやり取りをすることもあれば、日本語と韓国語の通訳ができる別のスタッフに助けてもらうこともあります。
また、絵をかいたり、ジェスチャーをしたりして、意思を伝えます。大事なのは言いたいことが伝わることなので、手段はなんでもありです。前半はこのようなコミュニケーションで意思疎通を行うことができました。
ところが、KISSYの後半は、フィールドワークでした。パソコンはありません。
石松:僕のチームは奈良にみんなで行きました。当初、きちんとコミュニケーションができるか不安だったのですが、結果としては、パソコンなしでも意思疎通ができました。僕が英語と日本語、もう一人のスタッフが英語と韓国語がわかるという状況でした。僕の英語は結構滅茶苦茶な片言英語なのですが、1週間近く一緒に行動しているうちに、それぞれの表情や話し方の癖などを自然にみんなが覚えていったのかもしれません。
また、僕自身の話し方も、より簡潔に、単純な言葉で話すように変わっていった気がします。伝える側も聞く側も歩み寄って、このチームならではのコミュニケーションが生まれたように思います。
誰かが何か言葉を発すれば、周りは必ず聞いて、いろいろな手段で伝えよう、理解しようとする場面が多々見られました。
最終的には子どもたち同士で、それぞれの国の簡単な言葉を使ってコミュニケーションをとっていることもありました。
いいね! とか、だめ! とか、おいしい? などでしたが、それでも十分にコミュニケーションが取れ、チームが一体となっていたように感じました。
世の中には自分とは違う考え方があること、
そしてそれはとても面白いことであるということを丁寧に伝えていきました
−−ファシリテーションで注意された点や工夫された点、難しかったポイントなどあれば教えてください。
石松:先ほどもお伝えしましたが、多言語・多文化で子ども達がコミュニケーションを取るインターナショナル・サマースクールの難しさは文化の壁だと思っています。
それを言葉の壁がより難しくしているという印象です。言っていることはわかったけど、理解ができない。
どうしてあの子はこんなことするのだろう?
たくさんの「どうして?」が子どもたちの頭の中に浮かんでいました。特に正義感の強い子は
こんなことしてだめじゃないか、あの子は間違っている。注意したほうが良い。
と僕に訴えてくることが多々ありました。(その子は誰にでも平等にそういうことを言うので、僕としては清々しかったですが。)その時に僕が注意して行っていたのが、少し違った視点から子どもたちと話をすることです。例えば
あの子がお風呂に飛び込んでた。あれはダメだって言ってよ
という訴えを日本の子どもが言ってきたとき、僕はそのままその子を注意することはまずしませんでした。まず訴えてきた子にこんなことを話しました。
ほんとだね。なんでこんなことしたんだろうね。もしかしてお風呂に飛び込んでいいって文化なのかな? 日本のお風呂では飛び込んじゃいけないってことを知らないのかな? それとも、だれか日本の子がふざけて飛び込んでそれを真似してるのかもしれないよ? 聞いてみようよ。知らなかったら教えてあげればいいんじゃない?
そうやって話しているうちに、訴えた子も冷静になってきていろんな話ができるようになります。
実際に子どもたち同士で会話をして問題が解決すると、次のことを言うようにしました。
こんな考え方するんだね。僕たちの知らないこんなルールがあるんだね。面白いね。
最後の「面白いね」をつけるのが僕が特に心がけたことです。世の中には自分とは違う考え方があること、そしてそれはとても面白いことであるということを僕は伝えたかった。子ども達も違うということを新しい発見ととらえてくれて、嬉しそうにしていました。
ただ、すべてこのように対応できた訳ではありません。やんちゃな子が多かったこともあり、なかなかみんなが寝ないという毎晩の問題については、語り合うまでもなく
明日早いからもう寝るよ!
と、かなり厳しめに寝かしつけていました。今の子どもたちは夜更かししている子が多いので、早い時間に寝かしつけるのが最も大変でした。いつの間にか、子どもたちから
お母さんみたい
と言われるようになりましたが、男子部屋全体を寝かしつけるミッションのおかげで、いろんな子と話すことができ仲良くなれたので良かったです。
子どもたちに共通する感覚「人を傷つけない=平和」
−−今回のサマースクールで特に印象に残った子ども達とのエピソードなどあれば教えてください
石松:今回のKISSYでは「We Love(私達の好きなもの)」というテーマでチームごとに作品を作りました。私達の好きなもの、僕たちのチームは議論の末「平和」だということになりました。
作品作りのために、
平和の象徴ってなんだろう?
と質問すると、鳩、ゲンゴロウ、そしてFlywhiskという答えが返ってきました。
Flywhiskって何?
と聞かれた僕も何のことか分かりませんでした。誤翻訳かな? 多くの子どもたちがハテナマークを頭に浮かべる中、アイデアを出したケニアの子が説明してくれました。
ケニアでは通常は槍や剣を持っているけど、Flywhisk(ハエ払い)を持つと人を傷つけることが出来ない。だから、ケニアではFlywhiskを振る動作が平和の象徴なのだそうです。
それは良いと全員がこのアイデアに飛びつきました。人を傷つけない=平和という感覚は子どもたちに共通のようでした。このアイデアが僕たちの作品の中核に決まり、他にも鳩やゲンゴロウ、地球などを作りました。作ったところで問題が発生。
石松:今回の作品はクリケットという小さなコンピュータをプログラミングして、モーターなどを動かし、工作物に動きを持たせて表現するのですが、素材がバラバラで、一つの作品としてまとめることが出来ていませんでした。すると、韓国の男の子が、素敵なストーリーを考えてくれました。
地球の上で子どもたちが互いの言葉が分からずぎこちなくしている。そこに天使が現れてFlywhiskを振ると、ゲンゴロウが鳩に乗ってやって来て、言葉が通じるようになり、コミュニケーションが取れるようになる。これで私達の好きなもの、平和を表現できるのではないか
と。これまでパンゲアに関わってきて、こんなにゾワッとした体験は初めてでした。子どもの発想力って、すごいです。この子は夜なかなか寝てくれず、毎日寝かしつけるのに人一倍苦労した子でした。
それだけに、まじめな顔で真剣にこのストーリーを語ってくれたことがすごく嬉しかったし、驚きました。
このストーリーに則って日本人の男の子がモーターやライト、音センサー、スピーカーを駆使したプログラムを作りました。最後まで緻密に調整する技術、すごかったです。
石松:韓国人の女の子は可愛い人形や精巧なゲンゴロウを作ってくれました。ケニアの男の子はFlywhiskを。また、日本人の女の子は地球の上に大陸を作る際、パンゲア大陸を作ってはどうかとアイデアを出してくれて、正確な大陸の形を再現してくれました。チームメンバー全員が素敵なアイデアを出し、一つの作品を仕上げることができました。最後に完成した作品を発表し、頂いたコメントで
このチームはいろんな国の子どもたちから構成されていると思えないぐらい一体感があった。まるで、パンゲア大陸から来た子たちの様だった
と、とても嬉しい言葉を頂きました。すごく嬉しかった。これからもパンゲアでいろんな活動が出来たらなと思います。
枝廣綾子のインタビュー後記
いやもうガッツ(石松さんのパンゲアでのニックネーム)本当にありがとう。チームリーダーとか若いボランティアの皆さんはユースホステルで宿泊まで子ども達と一緒に過ごしてくれてるから、大変なのは知ってたけど、お風呂に飛び込む子もいたり、寝かしつけるまで毎日大変だったんだと今回のインタビューで分か
認定NPO法人パンゲアの日本での活動は、東京(本郷三丁目)、京都(京都大学)、三重(三重大学)にて小3~中3の参加者を対象に月1度、土曜日の午後活動する年間プログラムを実施しています。お子様の活動参加・見学、学生や社会人の皆様のボランティア参加などの活動にご興味を持っていただけましたら、パンゲア事務局:info[アットマーク]pangaean.org([アットマーク]を@に置き替えてください)迄、メールにてお問い合わせください。
−写真提供:認定特定非営利活動法人パンゲア
記事をお読み頂きありがとうございました!
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この記事を執筆したGlolea!アンバサダー
- 枝廣綾子(Ayako Edahiro)
- Glolea! 世界と出会い、伝えあい、つながる遊び場アンバサダー
インターネットを利用して、留学しなくても世界の子ども達が出会い、伝えあい、つながることのできる遊び場、「ユニバーサルプレイグラウンド」の研究開発と運営をする認定NPO法人パンゲアの理事をしております、枝廣綾子です。パンゲアには2006年よりボランティアとして関わっており、仕事は、グローバル企業の人事です。