本当の意味で世界とつながる体験がここにある ー 高橋夏子さんインタビュー

枝廣綾子(Ayako Edahiro)
Glolea! 世界と出会い、伝えあい、つながる遊び場アンバサダー

皆様こんにちは! 認定NPO法人パンゲア理事/Glolea! 世界と出会い、伝えあい、つながる遊び場アンバサダー枝廣綾子です。世界の子ども達が言葉、距離、文化の違いの壁を乗り越えて、個人的なつながりを感じることの出来る遊び場「ユニバーサル・プレイグラウンド」を構築しているパンゲアの活動。連載9回目の今回は、パンゲア10周年記念で制作したパンゲアの紹介ビデオを制作してくださった、ディレクター&ガーデナーの高橋夏子さんインタビューです。ご自身もお母様でいらっしゃる夏子さんに、制作秘話を語っていただきました。

取材・映像制作を経て感じたパンゲア!−−高橋夏子

高橋夏子

プロフィール
高橋夏子/ディレクター&ガーデナー

1972年生、神奈川県出身。一男児の母。 早稲田大学政治経済学部卒、ケーブルテレビ局を経て、民放の医療番組チーフディレクター等。医療現場の取材を中心に、環境、教育などの特集を担当。 映像制作業の傍ら、植物好きが高じてガーデナーの仕事にも携わる。 一般社団法人 知ろう小児医療守ろう子ども達の会、理事担当。 現在、初の監督作品ドキュメンタリー映画「GIVEN~いま、ここ、にある幸せ」を 製作中。

 

高橋夏子さん(以下、敬称略)今回、ひょんなご縁から、パンゲアを紹介する映像を制作する機会に恵まれました。私自身

子ども達が世界とつながる活動

と、話には聞き興味は持っていましたが、実際のところはよく分かっておらず・・・。

百聞は一見しかず!

ということで、まずは、現場でしっかり取材させていただくことになりました。そこで、見たこと、聞いたこと、感じたことをお伝えしたいと思います。

地球とつながり国境をどんどん越える子ども達

髙橋:パンゲアの活動には、9歳から15歳の子ども達が参加します。実は、私の息子は現在7歳、いつか参加できないかと密かに目論んでいることもあり、親目線もかなり入りつつ、じっくり取材させていただきました。

 

『ローカルアクティビティ』は、通常の活動で、週末などに定期的に開催しているそうです。

 

子ども達が来る前に、ファシリテーター(学生・社会人などのボランティア)が集合し、入念に準備。使用する道具のチェック、パソコンや通信ツール等の準備、そしてどのような方向性で進めるのかの話し合いなどです。

▲アクティビティ前のスタッフミーティングの様子。

▲アクティビティ前のスタッフミーティングの様子。

ボランティアの『ボ』の字もなく、自分のことにかまけてばかりだった自分の学生時代を考えると、いま、こうした活動に関わろうという若い世代がこれほどいることは、頼もしい限りです。

 

さて、子ども達がやってくると、活動開始です。この日は、ネット上に自分の『家』を作ります。画用紙に好きな絵を描き、それをファシリテーターが画像取り込みをしてくれます。ファシリテーターは指導者ではなく、物事をスムーズに進めるための世話人です。主体はあくまで子ども達にあります。

▲カラフルなクモをベースにした家。

▲カラフルなクモをベースにした家。

ネット上に建てられた家は、子ども達がそれぞれの思いを表現したものでした。カブトムシ型(昆虫好きの少年)やカエル型(カエル大好きカエラー君)、白衣の掛かった家(医師になりたい?)・・・など、自由に『住みたい家』を描いていました。

▲自分だけの部屋を作成中。完成したらパンゲアネットにアップされます。

▲自分だけの部屋を作成中。完成したらパンゲアネットにアップされます。

『家』の外には『村』があります。その外に『国』があり、さらにその外には『地球』。子ども達は、パソコンのマウスを4回クリックするだけで、『自分の部屋』→『村』→『日本』→『地球』につながることができるのです。

 

いとも容易く『国境』を越える子ども達。この年齢でのこの体験は、この子のバックボーンになるだろう、と感じました。

 

『地球』につながった子どもたちはどうするのか?

言語の違う世界の子ども達と会話をし合う仕組みとは?

髙橋:他の国の子ども達と『会話』するのです。パンゲアの拠点は、日本以外にも、

  • 韓国
  • ケニア
  • オーストリア
  • マレーシア

…などにあり、その子ども達も皆、『自分の家』を持っています。その家の画像を見て、「一緒に遊びたい!」と思った子に対して「あなたの家に入れて!」というメッセージを送ります。

▲パンゲアネットで世界の子どもたちに会いに行きます。

▲パンゲアネットで世界の子どもたちに会いに行きます。

では、母語の違う相手にどう思いを伝えるのか?

 

ここが、パンゲアの面白いところで、英語など特定の言語を使うのではなく、『ピクトン』という、独自に開発された絵文字で会話ができるのです。また、まるでドラえもんの翻訳こんにゃくのような、『げんごろう』という自動翻訳装置もあって、日本語を入れるだけで、英語、韓国語・・・など相手の言語に瞬時に変換してくれます。

 

ピクトンも、げんごろうも、見た目は可愛いのですが、実は世界でもかなり先端を行く技術であることを、後で知りました。ここが、研究開発型NPOでもあるパンゲアらしい点だと思います。

世界とつながり自己表現。自然にコミュニケーションを楽しむ子ども達

髙橋:一見するとこの活動、『お絵描きして、パソコンに向き合っている』だけのようですが、全くそうではない、と感じました。子ども達は『自己表現』し、ごく自然に『コミュニケーション』を楽しんでいるようでした。

▲ソフトの使い方を子ども達同士でも教えあっています。

▲ソフトの使い方を子ども達同士でも教えあっています。

また、学校ではなかなかうまく自己表現できないという子どもも、この場では、のびのびと活動しているようでした。子どもの世界って、学校だけだと閉鎖的な部分もあると思いますが、パンゲアで得られる「僕は僕のままで世界とつながっている」という感覚は、もしかすると、自己肯定感につながるのかもしれません。

 

そして、学校以外にも、こうした成長の場があるということは、子ども達にとって、必要なことなのではないかと感じました。

▲ウェブカム準備中です。相手の子がどんなことを思っているか?を考えながら作戦をねっています。

▲ウェブカム準備中です。相手の子がどんなことを思っているか?を考えながら作戦をねっています。

 

ウエブカメラを使って世界中の子ども達と顔を合わせてリアルタイムで交流!

▲今日はウェブカム!カンボジアではホワイトボードに日本の映像を写しました。

▲今日はウェブカム!カンボジアではホワイトボードに日本の映像を写しました。

髙橋:こちらは年に数回のビッグイベントということで、ウェブカメラを使って、実際に顔を合わせて交流します。私がお邪魔した日は、千葉・柏の葉とケニア・ナイロビ、1万キロを越えての交流でした。

 

ウェブカメラをつなぐ前に、子どもたちは、ケニアで使われているスワヒリ語での挨拶と自己紹介を練習。きっと、ナイロビの子ども達も、同じように日本語の練習をしている頃でしょう。

 

そして、いよいよウェブカメラでケニアとつながります。

コニチワー、ワタシハ、コーネリアスデス

Jumbo jina langu ni ナツキ(こんにちは、私の名前はナツキです)

お互いの言葉を使ったたどたどしい挨拶ですが、それが伝わったときの、パッと輝いた表情は、本当に印象的でした。

物理的には離れていても、ネット&ゲームでつながりお互いの国や文化を知る

▲ウェブカムケニアサイドです。画面を通してゲームを行っています。

▲ウェブカムケニアサイドです。画面を通してゲームを行っています。

髙橋:そして、ウェブカメラを通じて、マッチゲームという遊びも行います。例えば「赤といえば何でしょう?」という質問に、ケニアと日本で、「リンゴ」など、同じ言葉を選ぶことが出来ればポイントゲット、というゲームです。つまり、『赤』という言葉から『相手がどう考えるか想像する』ゲームです。

 

ここで、とても面白いことがありました。「赤といえば何?」という質問に、小学校3年生の男の子が「リンゴもイチゴも、日本だと赤いのが食べ頃だけど、青いので食べる国もあると思う」と言ったのです。

 

うわぁ、この発想。まさに、異なる立場にいる相手を考える言葉、ですね。

世界の子ども同士が個人的につながる体験は、本当の意味で世界とつながることかもしれない−−

▲ウェブカム開始!

▲ウェブカム開始!

髙橋:交流が終わった後の子ども達ですが、交流前はケニアの子ども達について「わからない」とか「別に」とか言っていたのが、「ケニアの子って思ったより面白かった」とか「行って、会いたい」という感想に変わっていました。ケニアの少年もまた、「日本人は肌の色が違っていたけど、また遊びたい」と話していました。

 

見た目の違い、文化や言葉の違いはあって当たり前。それを前提として、相手の立場を考えて、つながる。

「アフリカの人」ではなく、「ケニアのナイロビのコーネリアスちゃん」と、直接お話する。

それが、本当の意味で世界とつながることかもしれませんし、個人的につながる体験は、子どもの心にグッと染み込んでいくのではないかと感じました。

 

実際、ナイロビでテロがあったとき、それまでだったら、遠い外国の事件としてスルーしてしまっていた子どもが、「あの子大丈夫かな?」と心配していたそうです。

 

「人の嫌がることをしない」というたった一つのルールの持つパワー

▲アクティビティの始めに「たった一つのルール」を確認します

▲アクティビティの始めに「たった一つのルール」を確認します

髙橋:パンゲアには、たった一つだけルールがあるそうです。それは

人の嫌がることをしない

これだけです。

この一言を聞いたとき、私は衝撃を受けました。そうか、これでいいんだと。息子が学校で友達とトラブル(大抵、息子が手を出しているのですが…)を起こすたびに、クドクドと小言を言っていましたが(そして大半は聞き流される)、ひとこと『人の嫌がることをしない』でいいんだなと。

 

家庭でも、学校でも、国際社会でも、本当はこれだけでいいのかもしれません。そのためには、相手の状況を知って、自分なりに考える必要があります。

 

実際、パンゲアに参加していた小学6年生の女の子は

ケニアの子は鉄砲の絵は、見るのも嫌。外国の人がどう感じるか考えるようになった。だからゲームでもそういう絵は描かない

と話しています。銃を持った兵士が街を歩き、テロが発生している国の子ども達が、そうした状況をどう感じているのか? 子どもなりに思いを馳せているのです。

 

子どもって、機会さえあれば、ちゃんと考えて成長するのだな、と感じました。そして何より、楽しみながら自分から進んでする活動だからこそ、その子の血肉となるのだと思います。大人に「大事だからやりなさい」といわれ、やらされるような活動だったら、こうはいかないのではないでしょうか。

パンゲアの活動が始まったきっかけは911だった

髙橋:パンゲアの活動は、2001年の911テロで標的となった飛行機に乗るはずだった(しかし、実際にはキャンセルして生きることができた)二人によって創設されました。

「どうしたら、こういうことが起きにくい世の中になるのか?」
「自分たちに出来ることがあるのでは?」

そんな心の奥底からの思いから生まれた、平和のための活動ということです。

 

世界平和を祈ることも大切ですが、祈りだけに留まらず、自分にできることは何か、必死で頭を絞って具体的に動くという姿勢に、私は刺激を受けましたし、自分もそうありたいと思います。(で…私にできることといえば、カメラを回して編集することなので、ささやかな貢献ですが、パンゲアの映像制作をお引き受けしました!)

 

我が息子も、再来年9歳になったらパンゲアに参加したいと、(今のところ)言っています。

 

息子が大人になる頃、世界はどうなっているのだろう?

 

少なくとも、「肌の色が違う」とか「宗教が違う」とか「文化が違う」ことで、相手を攻撃しない人が増えれば、世の中はもう少し良い方向に変わるのではないか、と願っています。そして、やはり、未来は子ども達の手の中にあるので、その育ちを少しでもサポートできる大人でありたいとも思います。

 

枝廣綾子のインタビュー後記

高橋夏子さんに制作していただいたビデオには、短い時間の中にストーリーがあり、映像にナレーションがつき、キャプションがつき、音楽がつき、子どもたちの様子だけでなく親御さんやボランティア、理事・副理事インタビューも交えてとても立体的にパンゲアの活動が見えてきたことに驚き感心しました。現在は映画監督にも挑戦されているという夏子さん。様々な才能に支えられてパンゲアが成立していることを、ありがたく感じます。パンゲアに参加する子どもたちはこうして活動する大人たちの様子も実は黙って見て何か感じているかもと思います。

 

− 写真提供: 認定特定非営利活動法人パンゲア

記事をお読み頂きありがとうございました!

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この記事を執筆したGlolea!アンバサダー

枝廣綾子(Ayako Edahiro)
Glolea! 世界と出会い、伝えあい、つながる遊び場アンバサダー

インターネットを利用して、留学しなくても世界の子ども達が出会い、伝えあい、つながることのできる遊び場、「ユニバーサルプレイグラウンド」の研究開発と運営をする認定NPO法人パンゲアの理事をしております、枝廣綾子です。パンゲアには2006年よりボランティアとして関わっており、仕事は、グローバル企業の人事です。

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