慢性的な教師不足に苦しむオランダ…政府の追加予算が皮肉な裏目に!
[世界のコロナ対策&オンライン学習事情]
- 倉田直子(Naoko Kurata)
- Glolea! 多様性&マルチリンガル子育てアンバサダー
何か問題を解決しようとして打ち出した対策が、さらなる混乱を招いてしまうようなこと、ありますよね。
筆者が住む欧州オランダは、長らく義務教育における教師不足に悩まされています。
今回は、それに関する政府の対案と皮肉な結果に関してお話させください。
目次
先生が足りない!
私は以前にも、オランダの教師不足に関して執筆したことがありました。
こちらはコロナ禍前の記事ですが、その後、事態はさらに悪化してしまいました。
コロナ禍のオンライン&自宅学習で学力に遅れが出てしまった!?
教室での対面授業が不可能だった時期は、オンライン授業や自宅学習が導入されていたのですが、それにより生徒たちの学力に遅れがでてしまったのです。
特に、家庭での学習サポートが少ない移民の家庭(親のオランダ語力不足、教育の重要性に対する認識の違い)や、デジタルデバイスやインターネット環境の悪い貧困家庭などの子供たちにその傾向が顕著でした。
そのギャップを埋めるためにも、更なる教育への注力が求められているのです。
政府が教育に85億ユーロ拠出
小学校1校が受け取る平均額は2000万以上だけれど…
そのため、オランダ政府は2021年2月に
教育分野に85億ユーロ(約1兆1千億円)特別予算を投入する
と発表しました。
学校に分配されるこの予算は、2年かけて学校が自由に利用して良いのだそう。
ちなみに1つの小学校が受け取る平均額は18万ユーロ(約2千3百万円)と政府が算出しています。
これほどまでの数字は、オランダでも前例がないと言われています。
これだけの予算があれば、追加で臨時教師なども雇用できる、一件落着!
と思えますよね。
けれど、事態はそれほど単純ではありませんでした。
例えば、地方都市などで高い給与を貰える教員のポストがあれば、そういった求人に都会の教師たちが流れてしまったのです。
オランダでは長らく、教師不足と並んで「都会の住宅不足」が問題にもなっています。
都会の狭い家に高額家賃を支払うより、郊外の広い家に住みながら、高い給与の出る地元の学校に勤めることを魅力的に感じる教師が多かったようです。
さらに、学習に何らかの支援が必要になる生徒が通う特別支援学校の教師も、一般の学校へ流出したと言われています。
同じだけの給与がもらえるなら、少ない労力で教えられる学校を選ぶ教師もいたのかもしれません。
問題解決のための予算拠出だったのに、やはり一番弱い立場の人のところにしわ寄せがいってしまうのがなんとも皮肉です。
大学で新規の教師養成学科も誕生したけれど…
そして、新たに教師を養成するための機関も誕生しています。
オランダには教師になるための様々なルートがあるのですが、カレッジの専門コースなどを経て教師になる人が多いようです。
なかでも最近注目を集めているのが、4年前にRadboud大学に開設された初等教育の教師養成学科。
初等教育に確固たる科学的根拠を与えるために設立されたこの学科への期待度は高く、他の大学もこのコンセプトに関心を持っていると言われています。
そして2021年夏から始まる新年度には50人の新入生が登録されているのだとか。
とはいえ、これまた「新たな教師の安定供給」とは単純に言えないようです。
そこで学んでいる学生たちも、必ずしも小学校で教師として働こうと考えているわけではないようで、給与次第では他の職業に就くことも視野に入れているのだとか。
どこまでいっても、やはりお金の問題はつきまとうのですね。
まとめ:子どもたちが安心して学ぶ環境を作るためには根気強い対応が必要
子供たちが安心して学ぶ環境をつくるためには、やはりお金は大切です。
それでもすぐには完ぺきな結果がでないということが、このオランダの大規模投資プロジェクトからうかがい知れます。
それでも国には諦めることなく、安定的に教育に予算拠出していってほしいと切に願います。
子供の健やかな学びと成長は、いずれ国の未来を作りますからね。
参照記事
記事をお読み頂きありがとうございました!
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この記事を執筆したGlolea!アンバサダー
- 倉田直子(Naoko Kurata)
- Glolea! 多様性&マルチリンガル子育てアンバサダー
- ハーレム
オランダ在住ライター。2004年にライターデビュー。2008年に家族の仕事都合で北アフリカのリビアに移住。リビア在住中に、現地の生活をリポートする海外在住ライターとして活動開始。2011年8月、英国スコットランドに移住。2015年夏よりオランダ在住。2008年生まれの娘は日英蘭語のトリリンガル。