一人一人が日本代表であることを意識したい
カナダで脈々と受け継がれる日系移民のこころから学ぶこと
- 中島範昭(Noriaki Nakajima)
- Glolea! カナダ・グローバル教育アンバサダー
戦前のカナダに実在した伝説の野球チーム・バンクーバー朝日の栄光と奇跡の物語を映画化。カナダの日本人街で生まれたバンクーバー朝日。貧困と差別、過酷な肉体労働の中で、やがて朝日は日本人街の人々の一条の光となっていく。 From 「キネマ旬報社 – バンクーバーの朝日」
現在、10万人を超える日本からの移民者がカナダに在住しています。 カナダに移住したことが記録されている最初の日本人移民は永野万蔵です。永野万蔵が1877年にカナダ・ブリティッシュコロンビア州に渡って以来、カナダへの移民第一世代の多くは九州や本州から移住。バンクーバーやフレーザー川流域で漁業などに従事していました。
その後、まじめにコツコツの蓄えた彼らは、戦争中に財産などすべて没収され抑留されるも、戦後は市民権も獲得。1988年にはカナダ政府から損害賠償を受け取りました。その後、カナダで生まれた2世、3世は日本語を話す者も少なく、日本人同士の夫婦は30パーセントほど。その他は、日本人以外の配偶者を持つ夫婦となりました。
しかし、1967年以降、日本からのカナダ移民の第二波がおとずれ、「新移民」と呼ばれました。そのほとんどが都市部に住むようになり、その波は現在も続いています。
戦前のカナダで実在した日系移民で構成された伝説の野球チーム「バンクーバー朝日軍」
「バンクーバー朝日軍」と聞いてもピンとこないと思いますが、映画「バンクーバーの朝日」なら、つい最近放映されていたので、ご存じの方も多いかも知れません。
映画では白人中心の野球チームに、日本人らしい緻密な野球で挑むシーンが印象的でしたが、私にとっては、主人公の父親の葛藤と息子のやるせなさのシーンのほうが心にしみました。映画「バンクーバーの朝日」を観た方は、分かるかも知れませんが、妻夫木聡さん演じる主役、また亀梨和也さん演じるエースなど劇中には両親が存在していました。ということは、彼らは日系二世となります。そして最初の移民者です。
日系一世となる主人公の父親。自分で夢見て、バンクーバーに渡ったものの、現実は厳しく、英語にもなじめない。妻や子どもたちの前では、強い父親を演じなければいけない。そのギャップの間で苦しむ父親。
かたや、カナダで生まれ、日系カナダ人として、何とか自分たちのステータスを確立したい息子たち。しかし、まじめな日本人に仕事を奪われたカナダ人や、人種差別主義のカナダ人たちに、夢を阻まれる二世たち。
現在、何のわだかまりもなく、カナダに受け入れてもらえた私たちには、想像を絶する苦労、困難があっただろうと思います。
私個人としてもカナダで差別を受けた記憶はなく、おそらく私たちの子ども世代もカナダ人としてフェアに扱ってもらい、だからこそ伸び伸びと二つの国籍を持ちつつ、多文化を身に着ける国際人の一員として育っていけると思います。
これまでは、そんなことは当たり前だと思っていたことを、どれほどありがたいことかと思わせてくれた映画でした。
バンクーバー朝日軍の拠点球場パウエル・グラウンドで行われる「パウエル祭」
その「バンクーバー朝日軍」の拠点球場だった「パウエル・グラウンド」は、現在は「オッペンハイマーパーク」という公園になっています。
今も、バックネットが存在し、朝日軍の名残もあります。 その「オッペンハイマーパーク」では、地元の日系人たちが中心となり運営する「パウエル祭」が毎年行われます。それには、バンクーバー近郊に住む日系人家族や、地元のカナダ人などいろいろな人が参加します。私の日本語学校の「バトンポンポンクラブ」も毎年参加しています。 1976年に始まった「パウエル祭」は、現在も続き、昔とは違った形でも、今もなお、すべての日系人の心のよりどころになっています。
カナダ人が日本に対して良い印象を持っている理由とは?
そのパウエル祭で、ある日系コミュニティーが食べ物屋さんを出店していたのですが、そこで私の生徒がボランティアをしていました。彼は中国人なのですが、「日系移民の歴史」について調べています。
日系移民は、戦時に私財をすべて奪われ、強制収容されるなど、様々なドラマがありましたが
自分の高校の教科書にはそんなことは全く書かれていない。自分で調べて、新聞に投稿したい。
と言って大学や日系コミュニティーを回って資料を集めています。戦時とはいえ、理不尽な扱いを受けたにも関わらず、文句も言わず耐え忍ぶ姿に感銘を受けたそうです。 カナダでいろいろな国の人と話していると
日本はいい国ね。日本人はみんないい人たちね。
と、皆日本に対していい印象を持っています。
これは、やはりカナダへの観光客やカナダへ移民した日本人の振る舞いがいい印象を与えているのでしょう。国としてのイメージもありますが、やはり実際に話したり関わってみて初めてその国の人がわかります。オリンピックやサッカーの選手だけでなく、一人ひとりが「日本代表」であることを意識したいですね。
記事をお読み頂きありがとうございました!
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この記事を執筆したGlolea!アンバサダー
- 中島範昭(Noriaki Nakajima)
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- バンクーバー
1児の父。バンクーバー日本語文化学院、CJLA コキットラム日本語アカデミーを経営。また、ローカルの生徒向けの学習塾(BrainChild)、北米初の日系総合芸能スクールGEVなども経営。2007~2011年には、JALTA(カナダ ブリテッシュコロンビア州 日本語教育振興会会長)を務める。