アントレプレナーシップ(起業家精神)も育む!?クラス旅行で「主体性」を伸ばすスウェーデンの教育
- 長谷川佑子(はせがわ・ゆうこ/Yuko Elg)
- Glolea! スウェーデン子育てアンバサダー
子どもの自主的活動は、将来の自立へとつながる経験になるのではないでしょうか。
更に、その活動が複数の子どもとの合意と協力の上で成り立つものであるのならば、それは人として生きていくうえでの大切なコミュニケーションスキルを学ぶチャンスになるでしょう。
今回は、スウェーデンの学校で昔から続く「クラス旅行」から、どのように子ども達が主体的な活動をしているのか、どのような学びを得ているのかを紹介します。
実は、スウェーデンは「ユニコーン企業※」輩出大国で、あり、若い人が起業することが多い国です。
スウェーデンで起業が盛んな理由は、今回ご紹介する「クラス旅行」などを通じた「実学教育」にもアントレプレナーシップ(起業家精神)を育む教育のヒントがあるのかもしれません。
※「ユニコーン企業」とは:
企業評価額が10億ドル以上の非上場ベンチャー企業。数が非常に少ないこと、また、有望なビジネスモデルをもちながら実質的な製品やサービスを生み出せていない状態を、幻の動物ユニコーンになぞらえたもの。
出典:コトバンク – デジタル大辞泉
目次
学校主催の「修学旅行」がない!? スウェーデンの学校
実は、スウェーデンの学校には、学校側が計画を立て、お金を徴収し、先生が引率する…という日本でよくある形式の「修学旅行」のようなものはありません。
遠足で森に行くことはありますが、学校行事として宿泊する学習時間はないのです。
しかし、
- 小学6年生
- 中学3年生
など、学校の最終学年の最後にはクラス旅行として「卒業旅行」を計画するクラスが多いです。
クラス旅行は学校行事ではないので、学校が決めることは一つもありません。
「卒業旅行」の実施が決まっても旅行費用を各家庭から出すことは禁止されている
卒業の際、何もしないクラスもあれば、近くの公園でピクニックをするクラスもありますが、クラスの仲間との思い出に宿泊や遠出の旅行をするクラスもあります。
しかしそこには2つの決まりがあり、
- クラスみんなの参加を前提とすること
- 子ども達の家庭から旅行費用を出すことは禁止されている
ことです。
旅行費用の各家庭支払い禁止は「子どもの教育環境の平等」の理念が背景に
子ども達の家庭から旅行費用を出すことは禁止されている
が決まりになっている理由は、家庭によっては費用を負担できず、参加できない子どもが出てはいけないからです。
「子どもの教育環境の平等」は、スウェーデンが昔から大事にしている理念の一つでもあります。
旅費は子ども達自身で稼ぐ!
クラス旅行成功の鍵はコミュニケーション力にあり
クラス旅行をするか、しないか、これは各クラスにとって始めの大きな議論でもあり、大きな決定です。
スウェーデンの小学校はクラス替えがなく、子どもが5年生くらいになると、クラス旅行をしたい子ども達から、自主的に、クラス旅行について話し合いたいというアクションを起こします。
休み時間に相談し、ホームルームの時間を少しもらい多数決でクラス旅行実施への採決をします。
その際、先生から、
学校行事ではないのですべて自分達で責任を持ち、実施するには計画や旅費を子ども達自身で稼がなくてはいけない
というアドバイスがあります。
また、小学生の場合にはお金の管理など難しいこともあるので、子ども達はクラスの保護者で協力してくれる人を募ります。
旅行実施となると、行き先に夢が膨らむ子ども達だが、同時にどうやって、どのくらいお金を稼ぐかということが、話題の中心になってきます。
子どもにとって目標のある収益活動は実学としての「社会勉強」につながる
子ども達は、
- 手作りケーキを学校行事で売る
- ディスコパーティーを企画してお菓子やジュースを売る
- 人の集まる広場や公園でコーヒーなどを売る
などして卒業旅行の旅費を自らの手で稼いでいきます。
また、既製品業者と契約し、子どもが商品を販売し売り上げの一部を旅行費用に貯められる方法もあります。
これは子どもが近所や親せきをまわって注文をとり、商品と代金を引き換えに後日いきます。
子ども時代から自然に育まれるスウェーデン人の起業家精神(アントレプレナーシップ)
「稼ぐ」という活動の中で、子ども達は、
- どこなら、よく売れるのかということ
- 暑い日にはコーヒーよりも冷たいレモネードが売れること
- どんなプレゼンでたくさんの注文をとれたのか
などを経験し、普段の生活の中でも商売のアイデアが浮かんでくるほどです。
クリスマス前はきっとみんなプレゼントを買うからその時が売り時だね!
などと相談しています。
注文をとりに近所を回ると高齢者と話す機会もあり、娘は95歳の男性から小学生の時にクラス旅行のためにものを売るのに苦労した話や旅行の楽しかったことを聞くことができ、ご近所に住む高齢者のことを身近に感じる機会にもなったようです。
多くの大人たちが
自分も楽しかったクラス旅行を子ども達にさせてあげたい
という想いを持っており、とても暖かく応援してくれますし購入をしてくれます。
スウェーデンでは若い人が起業することが多いですが、このような経済活動の経験があるからこそ自分で何かやってみたいと思うのかもしれませんね。
希望と現状を知り、実行可能な計画を実際に作るプロセスから大きな学びを得ているスウェーデンの子ども達
娘のクラスは現在6年生の新学期が始まったところです。
これまでに集めた旅費を計算してみると、自分たちが行きたいと思っていた遊園地に宿泊付きで行くには不足しているようです。
- 予定変更で日帰りで行くのか
- もっと旅費を稼ぎ予定通りの旅行をするのか
- 何が実現可能か
を話し合い、判断しているところです。
希望ばかりでは何も進まないので、現状を分析して実行可能な計画へと進めていかないといけません。
これから収支を計算しながらの計画は簡単ではないですが、移動方法や宿泊場所を検討して子ども達がどのような旅行ができるのか今後楽しみです。
最終計画も存分に議論して、思い出に残る旅をしてほしいです。
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記事をお読み頂きありがとうございました!
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この記事を執筆したGlolea!アンバサダー
- 長谷川佑子(はせがわ・ゆうこ/Yuko Elg)
- Glolea! スウェーデン子育てアンバサダー
- ウプサラ
2008年からスウェーデン王国、ウプサラで暮らしています。スウェーデン人の夫、3歳の娘の3人家族。森でのベリー摘み、湖での水遊び…日本とはちょっと違った子育てをしつつ、北欧文化を体験する日々です。 母親も外で働くのが当たり前の国での社会のしくみ、女性たちの生き方もお伝えしたいと思います。