「入学試験(学力試験)」がないってホント!?スウェーデンの高校進学と志望校選び…日本との違い
- 長谷川佑子(はせがわ・ゆうこ/Yuko Elg)
- Glolea! スウェーデン子育てアンバサダー
こんにちは! スウェーデン女王認定 認知症専門看護師/Glolea! スウェーデン子育てアンバサダー長谷川佑子です。
日本では、中学3年生になると高校受験が本格化し、保護者の間でも「入試」や「偏差値」に関する話題が大きな関心を集めます。
1月上旬から3月上旬にかけて行われる「入学試験(学力試験)」や、「内申点(加重計算合計または単純合計)+入試得点」による選抜は、日本の高校進学の象徴的なシステムです。
一方、スウェーデンの高校進学には「入試テスト」や「偏差値」という概念は存在しません。
生徒それぞれの興味や将来の目標に基づき、柔軟に進学先を選ぶことが可能です。
このスウェーデン式のシステムは、学力偏重ではなく、個々の可能性を引き出すことを重視しています。
スウェーデンの教育&進学システムにまつわる過去2回シリーズ
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に引き続き、今回は『高校入学試験がないってホント? スウェーデンの高校進学』をテーマにお届けします。
目次
- 「入学試験」「偏差値」は一切なし!柔軟性の高いスウェーデンの高校進学システムとは?
- スウェーデン高校進学の流れ:志望校選びから合格まで
- 「成績ポイント合計点(Meritvärde)」の計算方法と進学の流れ
- 「成績ポイント合計点(Meritvärde)」の計算方法
- スウェーデンの各高校の合格最低点の調べ方
- 人気校に申し込みが集中したらどのように選抜が行われる?
- 学習困難生徒・長期病欠生徒・移民生徒はどうなるの? 『公平性』を重視するスウェーデンの柔軟な制度
- スウェーデンと日本の評価の共通点はある?
- 生徒も事前に把握できる! 評価基準が明確で透明性の高いスウェーデンのペーパーテスト
- 学校間の成績の違いと公平性はどうしている?
- 「他の生徒より良い点をとること」が評価基準になりがちな日本のペーパーテスト
- スウェーデンと日本で異なる…教育で育まれる生徒のマインドセットの可能性
- 進学カウンセラーの支援を受けながら希望する進路へ!
- まとめ:柔軟で生徒中心のスウェーデン式★高校進路選択システム
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「入学試験」「偏差値」は一切なし!柔軟性の高いスウェーデンの高校進学システムとは?
前述の通り、スウェーデンの高校進学には日本のような「入試」や「偏差値」が一切ありません。
代わりに、生徒は成績ポイント合計点(Meritvärde)を基に志望校を選択します。
進学先の選び方も非常に柔軟で、生徒一人ひとりの興味や将来の目標に応じたプログラムを選ぶことができます。
では、どのように高校を選ぶのでしょうか。
スウェーデンの高校進学では、以下のステップを踏んで志望校を選びます。
スウェーデン高校進学の流れ:志望校選びから合格まで
- 情報収集:
志望する学校やプログラムの「合格最低点(Antagningspoäng)」を調べます。合格最低点は、前年の選考で合格した生徒の成績ポイント合計点(Meritvärde)の最低値が基準となります。
- 願書提出:
行きたい学校やプログラムを志望順位順にリストアップし、オンラインで提出します(通常は1月~2月)。
- 選考結果通知:
提出された志望順位リストに基づき、生徒の成績ポイント合計点(Meritvärde)を使って選考が行われます。春学期の暫定的な成績(Preliminära betyg)を基に仮決定され、その後、正式な最終成績(Slutbetyg)に基づいて最終的な進学先が夏に選考結果が通知されます。
- 追加募集:
もし定員に満たない学校やプログラムがあれば、追加募集が行われます。この際、成績ポイントに応じて再選考が行われます。
「成績ポイント合計点(Meritvärde)」の計算方法と進学の流れ
スウェーデンでは、成績ポイント合計点(Meritvärde)の計算もシンプルでかつ柔軟で寛容です。
日本の大都市部で見られるような「内申点の加重計算」も一切ありません。
スウェーデンでは次の方法で成績ポイントを計算し、高校進学の選考に利用されます。
成績ポイントの点数変換方法
まずは、各教科ごとの成績は以下のA〜Fに割り当てられ、それぞれを点数に変換していきます。
- A = 20点
- B = 17.5点
- C = 15点
- D = 12.5点
- E = 10点
- F = 0点(不合格)
「成績ポイント合計点(Meritvärde)」の計算方法
前述の「成績ポイントの点数変換方法」
この計算方法に基づいて、例えば、
16科目すべての成績がAの場合:
20点 × 16科目 = 320点(最高点) となります。
このように、成績ポイント合計点(Meritvärde)を予測した上で、各高校やプログラムの前年の合格最低点(Antagningspoäng)と比較し、進学可能な学校を検討していきます。
スウェーデンの各高校の合格最低点の調べ方
次に、スウェーデンでは高校進学における各高校の合格最低点はどのように調べるのでしょうか。
前年の合格最低点は、スウェーデン各地域の Gymnasieantagningen(高校入試担当機関) のウェブサイトで公開されています。
また、一部の地域では、合格者の成績分布(例: 最低点、平均点、最高点)が公開される場合もあります。
合格最低点具体例
- ストックホルムの人気校「自然科学プログラム」:
260点以上
- 地域の小規模な学校「職業プログラム」:
150点以上
進学可能な高校やプログラムは、地域やコースの内容によって合格基準が大きく異なります。
スウェーデン式で高校進学判定にチャレンジしてみよう!
成績ポイント合計点(Meritvärde)が「250点」の場合:
- 第一志望校「自然科学プログラム」
→ 前年最低点: 260点
→ 不合格
- 第二志望校「社会科学プログラム」
→ 前年最低点: 240点
→ 合格!
このように、自分の成績ポイントを基に志望校を順位付けし、進学先を選択していきます。
また、一部のプログラムでは、特定の科目の合格が必須条件となります。
学術プログラムの条件
大学進学を目的とした学術プログラムの場合…
以下の条件を満たす必要あり:
- 数学、スウェーデン語、英語の3科目すべてで合格点(E以上)を取得すること。
- その他の教科を含む合計12科目で合格点(E以上)を取得すること。
職業プログラムの場合…
職業プログラムでは、以下の条件を満たす必要あり:
- 数学、スウェーデン語、英語の3科目すべてで合格点(E以上)を取得すること。
人気校に申し込みが集中したらどのように選抜が行われる?
さて、これらの評価を基に、生徒それぞれの興味や将来の目標に基づき、柔軟に進学先を選ぶスウェーデンの高校進学。
しかし、人気のある学校やプログラムでは、希望者数が定員を大きく超えることがあります。
その場合、成績ポイント合計点(Meritvärde)が高い生徒から順に選ばれます。
同点の場合、学校によって異なる基準(例えば、抽選や追加試験)が適用されることがありますが、通常は成績ポイント合計点(Meritvärde)が優先されます。
特に人気校やプログラムでは、合格最低点が高くなる傾向があります。
自然科学プログラムや工学プログラムは希望者が多いため、最低点が250~320点近くと非常に高くなる場合があります。
志望校が高得点を必要とする場合は、自分の成績を基に現実的な選択を行い、第2志望や第3志望を慎重に設定することが推奨されます。
学習困難生徒・長期病欠生徒・移民生徒はどうなるの?
『公平性』を重視するスウェーデンの柔軟な制度
前述した通り、高校進学に利用される最終成績ポイントは、中学校で履修した16教科の中から、3年時の最終成績を成績ポイント合計点(Meritvärde)に換算した値に基づいて計算されます。
また、年間を通じて教師が評価した成績はまとめられ、校長が成績が「公平」で「規則に従っているかどうか」を確認し、学校として最終成績を決定します。
学習に困難を抱えている生徒はどうなる? 成績の公平性と追加支援
学習に困難を抱える生徒や、特別な支援が必要な生徒には、必要に応じて追加のサポートが提供されます。
長期病欠生徒の場合はどうなる?
長期の病気などで最終成績が合格基準に達しない生徒については、補習や特別なテストを受けたうえで成績が付けられる場合があります。
その際、より良い成績が高校進学の成績ポイント合計点(Meritvärde)計算に使用される仕組みです。
移民してきたばかりでスウェーデン語ができない生徒の場合はどうなる?
移民として中学校の途中でスウェーデンに引っ越してきた生徒の場合、スウェーデン語ができないために成績を付けることが難しいケースもあります。
このような場合は補習を行い、通常のテストで合格点が取れなくても、補修後の成果に基づいて成績が付けられる特別な補完措置が取られることもあります。
この柔軟性は『公平性』を重視するスウェーデンならではの仕組みで、日本の入試制度と大きく異なる点かもしれません。
スウェーデンと日本の評価の共通点はある?
スウェーデンと日本の中等教育の評価には、いくつかの共通点があります。
まず、教師が生徒の成績を年間を通して継続的に評価するという点です。
この評価には、次のような要素が含まれます。
- テスト
- 提出物
- 実技課題
- 授業への参加
また、教師は、各教科のカリキュラムと学習目標に基づき、生徒がその教科で求められる知識や能力をどの程度達成したかを確認します。
これは、スウェーデンでも日本でも重要視されており、中等教育における評価の共通点と言えるでしょう。
生徒も事前に把握できる!
評価基準が明確で透明性の高いスウェーデンのペーパーテスト
スウェーデンのペーパーテストと日本のペーパーテストの評価方法は若干異なる部分があります。
スウェーデンの場合は、評価基準が明確に設定されており透明性が高いのが特徴です。
生徒は、どの問題を正解すればどの評価がつけられるのかを事前に把握できるため、自分が目指すべき学習目標を具体的に理解できます。
-
問題ごとの評価基準の明確化
テスト問題には、難易度ごとに評価基準が明確に設定されており、生徒には「Aに相当する設問」や「合格基準となるCの設問」が事前に示されます。 -
段階的な評価
- 合格基準のCレベルの設問が正解でき、さらに難易度の高いAレベルの設問も正解できれば、そのテストはA評価となります。
- Cレベルの設問は正解しているものの、Aレベルの設問は不正解、ただし考え方が正しい場合にはB評価がつけられます。
このような段階的な評価方法により、生徒の理解度や努力の方向性がより正確に反映される仕組みとなっています。
スウェーデンでは、「どれだけ努力して勉強したか」よりも、
学ぶべき内容の知識をしっかり身につけているか
に重点を置いて成績がつけられます。
このため、単なる努力の量ではなく、生徒がどの程度学習目標を達成したかが評価の中心となっています。
学校間の成績の違いと公平性はどうしている?
日本と同様に、スウェーデンでも学校ごとに教師の評価基準やテストの難易度が異なる場合があります。
優秀な学校では「A」を獲得するのが難しいという意見もあります。
しかし、スウェーデンでは全国統一基準(Läroplanen)に基づいて成績をつけるよう教師に義務付けられています。
ここは、日本の評価制度との大きな違いではないでしょうか。
Nationella prov(全国統一試験)が成績評価の補助ツールとして使われる理由も、こうした「公平性」を保つためです。
これらの試験結果は、生徒の成績評価の基準として利用され、教師が独自の評価を行う際の偏りを減らすよう設計されています。
なお、Nationella provの結果が成績に直接反映されるわけではなく、最終的な判断は教師に委ねられています。
スウェーデンでは、学校間で成績を調整する制度(例えば、日本の「内申点調整」のような仕組み)は存在しません。その一方で、Skolinspektionen(教育機関)が各学校の成績評価を監視し、不公平が発生しないよう管理しています。
日本の学校でも成績評価の監視は行われていますが、実際には学校ごとに評価のばらつきが大きい点が問題視されています。
たとえば、最高評価である「5」の生徒がほとんどいない学校がある一方、多くの生徒に「5」や「4」を与える学校も見受けられます。
日本の中学校では学校間で評価の基準が大きく異なることが、さまざまな場面で課題として指摘されています。
「他の生徒より良い点をとること」が評価基準になりがちな日本のペーパーテスト
また、評価に大きな影響を及ぼす日本の中間・期末テストでは、学校や教師の方針による差はあるものの、一般的には全体の得点に基づく評価が行われます。
ただし、その評価は一見絶対評価のように見えても、実際には学内での成績分布を考慮した相対的な評価が影響を与えることが多いのが特徴です。
また、この仕組みでは、自分の成績が他の生徒と比較されるため、「学内の他の生徒より良い点を取ること」が成績向上の鍵となります。
その結果、日本では生徒は「競争」を意識した学びを強いられがちになっているのではないでしょうか。
スウェーデンと日本で異なる…教育で育まれる生徒のマインドセットの可能性
重要なのは「自己成長・学習の達成感」か「他人との比較・競争」か?
100年時代における学びの姿勢に与える影響
スウェーデンでは、他人との比較ではなく、自分が基準を満たしているかが重視されます。
そのため、競争よりも「自己成長」や「学習の達成感」が重要視される仕組みになっているのです。
一方、日本の評価方法では、他人との比較が成績に影響を与えることが多いため、生徒の学習意欲は「競争」によって引き出される傾向があります。
この違いは、生徒が日々の学習に向かうマインドセットや、人生100年時代における長期的な学びへの姿勢に大きな影響を与える可能性があります。
スウェーデンのシステムは、生徒が自分のペースで目標を達成し、学びの本質に集中できる環境を提供している点で、より柔軟で長期的な学びを支える傾向があると言えるかもしれません。
進学カウンセラーの支援を受けながら希望する進路へ!
スウェーデンでは進学に関する相談やサポートは、学校単位や市町村の進学カウンセラー(Studievägledare)が支援します。
また、多くの地域では、オンラインシステムを通じて成績を計算できる便利なツールが提供されています。
生徒は、第一志望のような「挑戦校」に加え、自分の成績で確実に合格できる「安全校」もリストに入れることが一般的です。
特に、数学、スウェーデン語、英語は重要な科目とされており、Nationella prov(全国統一試験)の結果に自信がある場合、少し難易度の高い学校を志望する生徒もいます。
まとめ:柔軟で生徒中心のスウェーデン式★高校進路選択システム
お伝えしてきた通り、スウェーデンの高校進学では、「入試」や「偏差値」がない代わりに、「成績ポイント合計点(Meritvärde)」を基にした柔軟で公平な進路選択が特徴です。
自分の興味や将来の目標に合わせたプログラムを選び、進学カウンセラーのサポートを受けながら計画的に志望校を決めるこのシステムは、個々の可能性を尊重する仕組みと言えるでしょう。
そして、
とにかくシステム変えて、やってみよう!
精神の強いスウェーデンでは、教育のシステムにおいても、調査・分析を国民みんなが見られるような形をとり、よりより方法についての議論を重ねています。
子どもの教育は未来の国をつくるための大きな基盤であるという国民の価値観もあり、単に中学生の子どもを持つ親の議論だけでなく、幅広い世代がいろいろな意見を出していることを、日常的に見聞きします。
システムの変更も多いため、現状どのように高校進学について子どもをサポートしていったらよいのか、進学サポートに相談たり、調べる必要はありますが、調べると多くの情報が透明化されており、とても興味深いです。
今回は、
入学試験(学力試験)」がないってホント!?スウェーデンの高校進学と志望校選び…日本との違い
についてお届けしました。
次回もお楽しみに!
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この記事を執筆したGlolea!アンバサダー
- 長谷川佑子(はせがわ・ゆうこ/Yuko Elg)
- Glolea! スウェーデン子育てアンバサダー
- ウプサラ
2008年からスウェーデン王国、ウプサラで暮らしています。スウェーデン人の夫、3歳の娘の3人家族。森でのベリー摘み、湖での水遊び…日本とはちょっと違った子育てをしつつ、北欧文化を体験する日々です。 母親も外で働くのが当たり前の国での社会のしくみ、女性たちの生き方もお伝えしたいと思います。