ブラジルではすでに当たり前!?社会に根付くインクルージョン教育のあり方とは-人は違って当たり前という基本方針&障がい児と健常児を分けない教育システム-
- 大岩ピレス淑子(Toshiko Oiwa Pires)
- Glolea! ブラジル大自然の中の生活アンバサダー
日本の公立小学校の特別支援学級で1〜2年生を過ごした息子は、現在ブラジルの公立小学校に通っています。今回は、ブラジルと日本の教育システムの違いを主にインクルージョン教育という観点で比較してみたいと思います。
目次
「健常児」?「障がい児」?
我が家の長男はダウン症候群を持って生まれました。
前回の自己紹介記事でもお届けしたとおり、私はプロダンサーとして長年ニューヨークのアーティストたちの中で暮らしてきたこともあってか、自分の子供がいわゆる「普通」でなくても全く気になりませんでした。
「健常児」「障がい児」という表現も、息子に出会うまで知りませんでしたし、私自身「普通である」とか「障がいを持っている」という区分けに全く意味を見いだせないのです。
みんなと同じでなければ「異常」な日本?
しかし、息子が2歳前までを過ごした17年ぶりの日本生活は「他人と違う」ことが「当たり前」なのではなく「異常である」ように感じさせられた窮屈な体験でした。
公共の子育て広場に遊びに行っても、子供達の成長を比べて「おんなじ〜!」だと、喜ぶ日本人ママ達との会話がうまくできずにいました。
人間を種類分けする日本社会
その後、息子は
- 2〜3歳半:
ブラジルの小さい保育園
- 4歳〜:
– 日本の保育園の普通クラス
– 特別クラス
– 障がい児デイサービス
– 成長のサポートをする療育センター
と様々な「日本社会」を体験しました。
日本では小学校に行き始める前に、役所が子供の判定をします。
言葉をあまり発しなく、言っていることを理解しているように見えなかった息子は「特別支援学校へ」と勧められましたが、私達はインクルージョンの教育方針※を信じているため、お願いして公立小学校の特別支援学級に入らせました。
用語解説:
インクルージョン教育・インクルーシブ教育とは From Wikipedia
インクルーシブ教育(インクルーシブきょういく、英語: Inclusive Education)とは、人間の多様性の尊重等を強化し、障害者が精神的および身体的な能力等を可能な最大限度まで発達させ、自由な社会に効果的に参加することを可能にするという目的の下、障害のある者と障害のない者が共に学ぶ仕組み。インクルージョン教育と呼ばれることもある。インクルーシブ教育は、障害のある者とない者が共に学ぶことを通して、共生社会の実現に貢献しようという考え方であり、2006年12月の国連総会で採択された障害者の権利に関する条約で示されたものである…続きを読む
本当は普通級が良かったのですが、教育委員会や学校からのプレッシャーは少なからずあり、それは入学してからも続きました。
現在の日本では子供の能力レベルに沿って
- 普通級
- 特別支援学級
- 特別支援学校
と分けるのが一般的です。
「種類分け」をすれば、教育するのに都合が良いという考え方は、のちに社会人になっても「普通の人が働く場」と障がい者の働く「作業所」あるいは「障がい者支援施設」のように続きます。
結果、いわゆる「普通の人」は「障がい者」との接点がほとんど無いまま生きていくことになります。
人間を種類分けして、それぞれの場所に置くという、私達から見るとおかしな社会構造です。
ブラジルのお国柄
インクルージョンは当たり前!
日本でもやっと最近「インクルージョン」という言葉や、障がい者差別解消法などという法律ができていますが、日本社会全体に浸透する「違うものへの無関心」と「無知から来る差別的な態度」は、ニューヨークやサンパウロなど多様な街に住んでいた私の肌には、いつもチクチクと刺さっていました。
ブラジルの学校は、子供達の学力は日本から劣っていても、ブラジル人のおおらかな人柄と、移民の国であるブラジルという国自体の性質から、当たり前にインクルージョンが成立しています。
学校はドイツやイタリアのように、基本的に障がい児と健常児を分けない方針です。
人はみんな違うもの。
ブラジル人の様々な肌の色やバックグラウンドが、それを明らかにしていますし、街やお店などでも様々な人が息子に明るく声をかけてくれます。
外国育ちの息子を、教師達も子供達も温かく受け入れてくれ、日本の学校でなかなか心を開けなかった息子も、短期間の間に慣れ親しみ、笑顔で登校しています。
子供のストレスを取り除くことが何よりも大事
日本で唯一、息子が気に入っていた障がい児デイサービスが掲げていた第一の目的は「子供のストレスを取り除くこと」でした。
「障がい児」とされる繊細な子供達に、一番必要なことだと解っている場所でした。
その子をありのまま受け入れ、愛情を注いでくれること。それはまさにブラジルの学校の教育精神だと感じています。
そしてそれは当たり前に、社会全体のスピリットでもあります。政治的にも経済的にも重いものを抱えているブラジルですが、人間性という面では寛容で人情あふれる国だと思います。
ブラジルの学校は午前授業か午後授業を選べる
ブラジルの義務教育は、午前授業か午後授業か選べます。
- 午前授業:7時〜12時
- 午後授業:13時〜17時
日本より修業時間は少ないですが、子供達は1日の半分は遊んだり、スポーツや習い事をしたり、家の手伝いをしたり、とそれぞれ過ごしています。
朝がゆっくりな息子には、12時半にバス登校というリズムはストレスがなく、生活の自立にも繋がっています。
ブラジルでの学校システムと「インクルージョン」精神
もっとインクルーシブな日本社会への期待:まとめ
外国人の夫とダウン症の息子と共に、再び日本に暮らしてみて感じた窮屈さや、根深い差別意識などは、私を悲しい気持ちにさせましたが、もちろん出会った人達の中には素晴らしい方達もいました。
今後、日本がもっとインクルーシブになり、子供達が色んな人達と触れ合いながら育っていける社会になっていくことを願ってやみません。
次回の連載記事では「ブラジルは実は帝王切開王国!? 〜驚きのブラジル女性気質」をテーマにお届けします。お楽しみに!
記事をお読み頂きありがとうございました!
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この記事を執筆したGlolea!アンバサダー
- 大岩ピレス淑子(Toshiko Oiwa Pires)
- Glolea! ブラジル大自然の中の生活アンバサダー
- サンパウロ州
高校卒業後NYの芸術大学で4年間ダンスを学ぶ。その後アメリカとフランスのカンパニーでプロダンサーとして世界中で踊る。パリを拠点にフリーランス活動中にブラジル人の夫と出会いサンパウロに移住。息子を日本で出産。サンパウロ州の海辺に家を買う。その後再び数年間の日本生活を経て第2子を出産、現在ブラジル在住。